「…おい、何だ…コレは…」

 

 

 

 早速、見つかってしまいました。

 

 

 

君のコイビト。

 

 

 

 途中色々とあったが(猫に追いかけられたり、カラスに攫われそうになったり)(もちろん千石が)、何とか無事に学校へたどり着いた俺と千石(ミニサイズ)は、直ぐさま部室へと向かった。
 テニス部は休みだけど、当然他の部は活動中な訳で。知り合いに会わない事を祈りつつ、早足で運動場の隅っこを駆け抜ける。幸いにも誰にも会う事なく部室に着けて、少しホッとしながら鍵を開けた。
 こういう時は俺が地味でよかったな、としみじみ思う。これが千石だったら間違いなく誰かに気付かれていただろう。

 そこまで考えて、ちょっと凹んだ。

 

「誰にも会わなくてラッキーだったね!」
「本当だよ…これであとは妹がいるヤツに頼めば一段落だな…」
「妹サン、誰かいる?」

「えっと…東方と…あと壇にも妹がいるみたいだな」

「よし!じゃあその2人を当たってみよー!!」
「そうだ…」

 な。と俺が最後まで発する前に、言葉は途切れた。

 部室の、扉が開いたのだ。
 いきなりの事で、俺は千石を隠す事が出来なかった。ちょうど入口に背を向けていた俺は、恐る恐る後ろを振り返る。
 そこに立っていたのは。

「亜久津…」
「テメェこんな所で何してんだ?今日は部活休みだろーが」
「そ、それはこっちの台詞だ。亜久津こそどうしてここに?」
「あァ?俺は優紀と一緒に担任に呼び出し喰らったんだよ。ったく…ウゼェ。終わって帰ろうとしたらお前の姿が見えたから来てみたんだよ」

 まさか見られていたとは…。普段、部活中も地味なせいで部員に気付いてもらえず苦労しているというのに、何もこんな時だけ気付かれなくても…!
 そんな俺の心の叫びを知ってか知らずか、亜久津は不思議そうにこっちを見てくる。来るな!と言いたかったが流石に言えるわけが無い。

 

「で?お前は何でいる……ん…」

 

 亜久津がそう言いながら何気なく机の方を見た。まずい。最初に視界に入って来るのは当然オレンジ頭の小さいヤツで。
 亜久津は目を丸くした後、困ったように俺に視線を戻した。

「お前…」

「いや、ほら、これには事情があってさ!その、なんと言うか…」

 

 何て言えばいいんだ…!
 納得して貰えるような言い訳をあれこれ考えていると、亜久津はゆっくりと机に近づき、おもむろに千石を掴み上げた。

「あぁぁぁあ!それは…」

「…お前、こんな趣味があるんだな…」
「いや、それはだな…って、え?」

 今、何て言った?『こんな趣味』とはどんな趣味ですか?

「えっと…」

「別に誰にも言うつもりは無いから安心しろ」
「え?あ、うんありがとう…」

 頭がついていかない。要するに、アレか?このオレンジが千石だって事には気付かれて無いのか?まぁ確かに、人が小さくなるなんて考えは普通思い浮かばないだろうけど。
 喋るどころか動く気配も全く無い千石に一抹の不安を覚えつつ、何やら考え込んだ様子の亜久津を見遣る。

 しばらく部室に沈黙が続いた。
 その空気に耐え切れず俺が何か言おうとする前に、その沈黙を破ったのは亜久津だった。

 

「確か…優紀が古い人形用の家具を持っていたが…それで良かったら、いるか?」

「えっ!それは是非!!」

 願ってもない言葉に、思わず俺は声を張り上げた。
 そんな俺を何故か憐れむような目で見た後、亜久津が続けた。

「テメェだけでは店になんて買いに行けねぇだろ?優紀の使い古しでいいなら、協力してやるよ」

「うんうん、助かるよ!ありがとな!!」

 どうせ使わねーから、後は捨てるだけだしな、と言う亜久津が妙に親切過ぎる気がするが、とてもありがたい申し出に俺は浮かれていて特に気にしなかった。
 優紀呼んで来る、と言い残し、一旦部室を後にした亜久津にもう一度お礼を言っていた為、いつの間にか亜久津の手から開放されていた千石が笑いを堪えるのに必死な事にもその時は気付かなかった。

 

 

 

 

(南変態決定・笑)(2007.3.15up)