そんなこんなで。
南君のコイビト。
あの後、亜久津のお母さん(とても綺麗な人だった)から人形用の家具を譲り受けた俺は、千石と共に何とか無事に我が家に帰り着いた。
…本当はとても気になるのだけど。
「人形好き」だという勘違いが他のやつらに広まったら、俺は地味ではなくなってしまう。いや、地味じゃなくなるのは嬉しいが、そんなイメージなら正直いらない。
…自分の事を地味地味言っている俺もどうかと思うが…。
うん、そうだよ!俺は地味なんかじゃないんだ…!俺の周りのやつらが派手すぎるだけなんだよ! あ、また話が脱線してしまった。
まあ亜久津は誰にも言わないって約束してくれたし、気にしては駄目だよな。
「…よしっ、出来た!」
気にしない、気にしないと呪文のように繰り返しながら、俺は作業を終わらせた。 「…何がー?」 千石が布団の中からそう訊ねてくる。コイツ…今、寝てたな?マイペースすぎる寝ぼけた声の千石に呆れながらも俺は返す。 「お前の部屋だよ」 「…俺の部屋?」 あ、今の首を傾げる姿はちょっと可愛い。そこまで考えてからハッと我に返り、頭を思いっきり振って誤魔化した。 青くなったり赤くなったりと百面相をしている俺に驚いたのか、千石が「…南?」と恐る恐る声を掛けてきて我に返った。 「えっと…うん、そう。お前の部屋」 一瞬何の話だったか忘れかけたが、しっかり思い出してそう答えた。疑問に思っている千石をそっと優しく抱き上げ、俺は机の方へと連れて行く。 一番下の大きめの引き出しの中。そこに先程もらった家具を並べてある。 「うわあ…!」 ワンルーム、トイレ付き。と言うと聞こえはいいが、流石にトイレは造れなかったので、折り紙で箱を作ってそこにトイレットペーパーを敷き詰めただけのものだ。折り紙なら何度でも新しく作れるしな。 千石は嫌がるかな、とドキドキしたが「作ってくれただけで充分!」と言って貰えてホッとした。
「南みなみ!これソファなのに凄い固いよ!」 嬉しそうな千石を見ているとこっちまで嬉しくなる。 「…?これは?」 千石が指した方向を見てハッと気付く。そういえばまだそこは作りかけだったな… 「それは…ちょっと待てよ」 ゴソゴソと上の引き出しを開けて取り出したのは豆電球。理科の時間に使ったやつだ。これも何かに使えるかも…と思って取っておいたものだった。 「これをここに繋げば…」 パッと豆電球に明かりが灯る。俺から見ると薄暗い光だが、千石にとっては眩しいようで、目を細めながら豆電球を見ている。 「もし千石が暗いな、と思ったらそれが明かりの代わりになるかと思ってさ」
千石が中にいる時にこの引き出しを閉めることは無いだろうけど、と付け加えていると、千石がこっちをじっと見て来た。 「…どうした?」 「南っ!俺、南のおかげですっごく助かったよ!本当に色々とありがとう!」 少し照れたように、でも満面の笑みでそうお礼を言う千石に、正直照れ臭くなりながら俺は返した。
不意に千石がしゃがみ込み、俺はギョッとした。
「どうした!?」 「改めまして、ふつつか者ですがこれからもよろしくお願いします」 具合でも悪くなったのかと慌てる俺の心配を余所に、正座をした千石が神妙な面持ちでそう挨拶した。 「ちょ!人がきちんと挨拶してるのに!」 「…ははっ、いや、悪い。そうだな。こちらこそよろしくな」
むー!と膨れて足をジタバタさせている小さい千石を見て、俺は更に笑いが込み上げて来た。
これから先、問題は山積みだろうけど、2人で頑張って乗り越えていこう。 心からそう思えたひと時だった。
続く。 (とても長い一日でした)(2007.3.19up) |