『ねぇねぇ!南!!ウチにすぐ来て!!スゴイから!!』

 という、何ともまあ要領を得ないメールが千石から届いたのは朝の7時過ぎだったと思う。その時は休みなのにあいつにしては早起きだな、と感心したものだ。
 何となく嫌な予感がしたが、呼ばれたからには行くべきだろう。と朝ご飯を食べてからすぐに千石の家へ向かった。

 

 

 

 ―――俺が、素直に行くんじゃなかった、と後悔するのはもう少し後の話。

 

 

 

君のコイビト。

 

 

 

 千石の家は、俺の家からそう遠くは無いのですぐに着いた。確か今、おばさんたちは旅行中だっけ。
『一人暮しを体験できる!』と喜んでいたのはそんなに前の話では無いはずだ。尤も、その一人暮らしにはすぐに飽きたようだったが。
 またご飯を作れとかそういう類かな、と千石家に料理を作りに来る事が日常となりつつあることに少し落ち込みながらも、俺は玄関のチャイムを押す。

 

 一回…二回…

 

 何度鳴らしても出て来る気配が全く無い。二度寝でもしているのだろうか。
 呼び出しておいてそれかよ、とツッコミを入れつつ、何気なく玄関の扉を押してみるとすんなりと開いてしまった。

 おいおい、不用心だな。

 そう思いながらも勝手知ったる家なので、遠慮なくお邪魔することにした。もちろん挨拶は忘れずに。

 寝ているとしたら部屋だよな、と2階の千石の部屋に向かった。

「千石?寝てるのか?」

 きちんとノックも忘れずにそれだけ言うと、中から微かに「起きてるよー…」と声が聞こえてきた。完璧に寝ぼけてるな、と呆れつつも、部屋の中に入る。

「千石、一体何の用…」

 だ、と言い終わる前に俺の目に入って来たのは、空っぽのベッドだった。
 周りにも人の姿は見当たらない。

 …部屋を間違えたか?でも確かにこの部屋から声が聞こえたはず…
 訳が分からずに困惑していると、再びどこからか千石の小さな声が聞こえてきた。

 

「南ー。見て見てー」

「千石…?お前どこに…」

 

 

「ここ、ここ。南の足元」

 

 

「足元…?」

 

下を向いた俺の目に入って来たのは。

 

「…千石…?」

 

 ―リカちゃん人形サイズの、千石の姿だった。

 

 

 

 

(プロローグ的な)(2007.3.11up)