突然の雨
今朝の天気予報によると、今日は雲一つない快晴のはずだった。
ついでに言うと、昨日の予報も、さらには先週の週間予報においても、今日は晴れのはずであった。
だから何も疑うことなく家を出てきたというのに―…
俺は目の前に広がる真っ黒な空と、そこから落ちてくる大量の雨粒を眺めながら、思わずため息をついた。
「最悪や…」
俺の呟きは空しく雨音にかき消される。
雲行きが怪しくなったのは昼を過ぎた頃だった。
空が黒い雲に覆われ始めてから雨が降り出すまでにそう時間はかからなかった。
最初はただの夕立だと思い特に気にしていなかったが、とうとう雨がやむことはなく。
結局部活は中止になってしまった。
今日は久しぶりに小春とのダブルスやったんに…。
その小春はというと、練習が無くなったと知るや否や俺を置いてさっさと帰ってしまった。
寂しい。
掃除当番を終えて教室に戻った瞬間の寂しさと言ったら…今思い出すだけでも涙が出そうだ。
それにしても―
「どないしよ…」
誰に言う訳でもなくポツリと呟く。
傘なんて勿論持っているはずがない。
濡れて帰ってもいいのだが、明日は四天宝寺華月でのモノマネライブが控えている。
万が一風邪でもひいて、ライブに穴を空けるわけにはいかない。
だからと言って、他に打つ手はないのだが。
「うお、」
ピカッと眩い光が空を走ったと思ったら、すぐ後に地響きのような雷鳴が轟いた。
近くに落ちたようだ。
別に雷は怖くないが、あまりにも突然だったので思わず変な声が出た。
驚きのあまり心臓がバクバク言っている。
「…何しとるんスか」
未だに早鐘を打っている胸に手を当てていたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと、光が不審そうな顔でこちらを見ていた。
「おお、光」
「ただでさえアホな顔が更にアホになってますわ」
「ちょ、誰がアホやねん!」
相変わらず光は口が悪い。
俺も言い返そうとは思うのだが、悔しい事に毎回言い負かされてしまう。
「で、アホのユウジ先輩はこない場所で何ボケッとしてはるんスか」
…絶対コイツ、俺のこと先輩やと思てへんやろ。
反論しようと拳を握ったが、何も言葉が出てこない。
自分のボキャブラリーの少なさにガッカリしている横で、光は「ああ、」と何やら納得したように俺の手元を見た。
そして何も言わずに俺の横をスタスタと通り過ぎて、無言のまま傘を開きこちらに振り返った。
「傘、」
「ん?」
「持ってへんのやろ」
「え?ああ」
光の唐突な行動に目を丸くしていたので反応が遅れた。
傘の中に少しスペースを空けて仏頂面をしている光を見遣る。
「…入ってもええの?」
「ええも何も、傘持ってへんのやろ」
「そらそうやけど…」
まさか光からそんな申し出があるとは思わなくて躊躇っていると、痺れを切らしたのか光が背中を向けた。
「ま、別に濡れて帰りたいんやったらかまへんけど」
「え!それは嫌や!入る入る是非一緒に帰ったってください」
本気で帰ってしまいそうだったので慌てて駆け寄ると、光に笑われた。
普段の皮肉めいた笑みとは違う、自然と零れ落ちたような笑顔だった。
そんな表情を見て、驚いたと同時に何だか嬉しくなって思わず顔を緩めていたら、怪訝そうな顔をされた後に「またアホ面になってますわ」と今度は鼻で笑われた。
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(2009.6.25up)
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