「でな、いきなり叫ぶから何や思たら、学ランの中パジャマやってん!」
「謙也さんもアホっすね」

 

雨の勢いは留まる所を知らず、未だに降り続けている。
光と二人、他愛無い会話をしながら肩を並べて歩いていく。
時々鳴り響く雷の音が気になって傘から顔を出して見上げてみたら「濡れたいんスか」と光に引き戻された。
真っ黒な空から落ちてくる雨は、とても冷たかった。

「うぉ!」

また雷が落ちた。
音にビビッて小さく悲鳴のような声を漏らしたら、隣で笑う気配がした。

「なんや先輩…ビビッとるやないですか」
「べ、べつにビビッてへんわ!」

実際ビビッてたのは間違いないのだが、光があまりにも平然としているのが悔しくて、思わず反論の言葉が口から飛び出した。
どもりながら言い返す俺を見て、光はニヤリとした。

「むっちゃビビッてますやん」
「せやからビビッてへんわ!」
「へぇ…。『うぉ!』って言うとったのはどこの誰やろなあ」

光はご丁寧に俺の真似をしながらニヤニヤと返してきた。
…ちゅーか俺、そないアホっぽい顔はしてへんわ。

光の目にはそんなにアホ面に映っているのだろうかと少し複雑になりつつ、再び反論しようと口を開く。

 

「せやから―――うわっ!」
「!」

雲に覆われて真っ暗になっていた空が突然明るくなったと思った次の瞬間、あたり一面に激しい雷鳴が轟いた。
俺も光も思わずビクッと肩が震える。
雷はすぐ近くに落ちたようで、稲光が怖いくらい綺麗に見えた。

 

2人の間に沈黙が訪れる。
雨音がさっきよりも大きくなった気がした。

「…」
「……」

「…さすがに今のはビビりますわ」
「…せやな」

まだ心臓がバクバク言っている。
しばらく2人で立ち尽くしていたが、思い出したように再び歩き始める。
心なしか、お互いに歩くスピードが早くなった気がした。

ふと、先ほどの雷に驚いたはずみに、ちゃっかり光の手を握っていたことに気づいた。
逆に今まで何故気づかなかったのか不思議だ。
一気に羞恥心が襲い掛かってくる。
顔の赤さがバレないようにこっそりと光の様子を窺ってみたが、光は何事もなかったかのように平然としていた。
恥ずかしがっているのは自分だけなのだろうか。

何だかいたたまれなくなって手を離そうと思ったが、光が特に嫌がる素振りを見せないのをいいことに、もう少しだけ繋いだままでもいいか、と思う事にした。

 

 

 


(2009.7.28up)