落ちる沈黙、同時の「あのさ」
最近の俺はすこぶる機嫌がいい。
テニスで白石に勝てたし(小春にもほめられた!)、モノマネも絶好調だ。
この前なんかは、部室で携帯を弄っていた謙也に向かって教育指導の先生のマネをして怒鳴ったら、慌てた謙也が椅子から落ちたぐらい調子がいい。
まあ謙也にはさすがに悪い事をしたと思ったが。
そして何よりも俺の心を浮き立たせたのは、今日のお笑いライブだった。
俺自身もライブは頻繁に行っているが、やはり俺みたいなアマチュアとプロとでは格が違う。
巧みな話術、絶妙なタイミングのツッコミ、飽きの来ない笑いの連続。
楽しいと感じると同時に、俺もあんな風になりたいと思う。
そのためにはもっとモノマネを極めて、小春との連携も今以上に完璧にせなアカン!
ライブに誘ってくれた光には本当に感謝している。
俺は頑張ったけどチケットが取れず、半ば諦めていたのだから。
「光はホンマにええヤツや…」
「それ、もう何回も聞いたんやけど」
オレンジジュースを一口飲んでから、ホゥ…と一息吐いた。
光はいつも通り生意気だが、それすら今の俺には気にならない。
ライブが終わり、近くにあった喫茶店に入った。
お昼を過ぎてから随分経っていたので、店内に客は少なく、休憩するのには最適な環境だった。
少し遅い昼食をとりながら、二人で先程のライブについて語り合う。
一見お笑いには興味が無さそうな光だが、やはり四天宝寺中の生徒だと言うべきか、お互いにライブの余韻覚めやらぬまま、時間が過ぎるのも忘れて喋った。
ひとしきり話し終えて、昼食も済み、二人の間に沈黙が落ちる。
でもそれは気まずいものではなく、心地良い沈黙だった。
店内に流れるBGMや、時折入り口の方から聞こえてくる店員の声を耳にしながら、俺はまたジュースを口に含む。
ストローに触れた氷がカランと動いた。
「あの「あのさ」
ふと思いついた事を口にしようと思ったら、話を切り出すタイミングが全く一緒で驚いた。
光を見ると、やはりびっくりしているようだ。
「あ、スマン、何やった?」
「いや…先輩が先言うてください」
お互いに出ばなを挫かれたというか何というか。
光に促されたので俺から話すことにした。
「この後どないする?まだ時間があるんやったらちょっと寄りたいところがあるんやけど」
「ええですよ」
あっさりOKを貰えてホッとした。
…ん?なんで俺はホッとしとるんやろ。まあええか。
どこ行くんスか、と聞かれたのでCD買いに行きたいんやけど、と告げると光が目を見開いた。
「え、どないしたん」
「…俺もちょうど行きたい思てたんで」
「ホンマに!?」
まさか同じ事を考えていたとは思っていなくて驚いた。
何だかさっきから驚いてばかりな気がする。
それにしてもさっきの話すタイミングといい、今といい―。
「何や俺ら息ぴったりやな」
何となく嬉しくなって俺が笑いながらそう言うと、光は怒っているような嫌がっているような、なんとも言えない微妙な表情になった。
…そない俺と一緒なんが嫌なんやろか。
元々普段から小春と一緒にいる時によく「キモいっすわ」とは言われているので慣れているつもりだったが、やはりこうして面と向かって表情に出されると正直キツイ。
未だに複雑そうな光から目を逸らしながら、俺は自分の胸がチクリと痛んだのを人事のように感じた。
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(2009.5.15up)
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