チケットの行方
俺は人からよく「愛想がない」だの「怖い」だの言われるが、それは昔からの俺の性格だから仕方が無いし、別に直そうとも思わない。
―だから今こうして、先輩を前に緊張しているのも決して変な意味ではない…と思う。
「先輩」 俺の呼びかけに気付いたユウジ先輩が振り返る。
自然と握っている手に力が入る。 手にしているチケットがくしゃっと小さく音を立てた。
「先輩、今週末のお笑いライブに行きたい言うてましたよね」 チケット取れへんかってん、と残念そうに話すユウジ先輩に、コレ。と持っているチケットを見せた。 「ん?なんやそれ…ってそのチケットやんけ!え、これどないしたん」 仕事で行けんくなったみたいなんで、と続ける俺の声が聞こえているのかいないのか、先輩は目を輝かせながら俺の手元を見つめている。 「2枚あるんやけど」 普段なら「なんでそない上から目線やねん!」とツッコミが入るところだが、それどころではないらしい。 「いやあ、お前ええヤツやなあ!」 笑いながら人の背中をバシバシと容赦なく叩いてくるユウジ先輩に文句を言いつつ、俺は自分が心底ホッとしている事に気付き、さっき以上に動揺した。 なんで真っ先に彼に声を掛けたのか。
本当はとっくに答えが出ているのだが、それにはまだ気付かないフリをしておいた。
(2009.5.14up) |