いつものように部活を終えて家に帰ってきた。
ご飯を食べて風呂も済ませた今は、部屋で次のライブのネタを考えている。
ここで小春の台詞を入れるべきか…いや、あえて無言にしても面白いかもしれない。
うんうん唸りながらノートに次々と文字を滑らせていく。
最終的には小春と相談して完成するのだが、大まかな流れはお互いに用意するようにしている。
それぞれの意見を出し合う事によって新たな発見があったりするものだ。
「よっしゃ、これで完璧や!」
ノートを見て一人で頷く。今回のネタは我ながら面白いと思う。
こりゃ明日小春に見せるのが楽しみやな…と小春の反応を想像して思わずニヤニヤしていると、ふいにベッドに置いてあった携帯が着信を告げた。
ノートを机の上に置いて携帯の元まで駆け寄る。
最近変えたばかりのこの着信音は電話だ。それも一人専用の。
「もしもし、光?」
『はい。今大丈夫ですか?』
「ええで。どないしたんや?」
『特に用事は無いんやけど…』と口ごもる光に小さく笑いながら、ベッドに腰を下ろした。
電話来たの絶妙なタイミングやったし、お前エスパーなんちゃう?と冗談交じりに言うと、なんやねんソレ。といつものように返ってきた。声は笑っている。
つい先ほどまで一緒に部活をして一緒に帰っていたのだが、それでも話は尽きることがない。
いつもはユウジが喋って光がそれに相槌を打つ、というのが基本なのだが、今日の光はいつもより饒舌だった。
珍しいこともあるもんやな…と思いながら光の話を聞いていると、ふいに何かを思い出したかのように光が「あ」と呟いた。釣られてユウジも「ん?」と返す。
『誕生日おめでとうございます』
ユウジは反射的に時計を見た。いつの間にか日付が変わっている。
もうこんな時間やったんか…と思いつつ、「おおきに」とお礼を言うと、電話越しに光がなにやら満足気に息を吐くのが聞こえてきた。
『先輩まだ誰にもお祝いされてへんやろ?』
「そらそうやな」
ずっと光と喋っとったし、と続けると光が『ほな、俺が一番乗りっすね』と嬉しそうに呟いた。
きっと誰よりも早くお祝いしたかったのだろう。普段よりも饒舌だったのもきっと日付が変わる前に電話が切れてしまう事のないように必死だったから。
そう思うと、この電話の向こうの恋人がとても愛しく思えてきた。
俺って愛されてるんやなあ…と胸がいっぱいになってくる。
「俺も、一番最初に祝ってもろたんが光で嬉しい」
思わず、といった感じで口から零れ落ちた。
言ってから恥ずかしくなったが今更どうにもならない。
光からの反応が無いのが少し気になる。
『先輩』
「お、おん」
『俺、ユウジ先輩のこと、むっちゃ好き』
唐突に発せられた言葉に思わず動揺して携帯を落としそうになりつつ、「俺も…」とだけ何とか返す。
こうしてはっきりと気持ちを口に出すのは初めてな気がする。
きっと今の自分は真っ赤なのだろう。全身が、熱い。
『…』
「…」
『そ、そしたらまた明日、朝練で』
「お、おん。ほな、また明日」
お互いにどもりながら電話を切る。通話が終わり電子音の鳴り続ける携帯を見つめながら、ユウジはベッドにズルズルと倒れこんだ。
なんやこれ、むっちゃ恥ずかしい。
ただ普通に会話をして、誕生日を祝ってもらって…す、好きと言っただけなのになんでこんなにいっぱいいっぱいなのだろうか。
枕に赤くなった顔を押し付けながら、明日どんな顔をして光と会えばいいのだろうか…と頭を悩ませる。
何だかもの凄く照れくさい。
どないしよう…と悩むユウジは、電話の向こうでしゃがみ込んでいる光の顔も、同じように真っ赤に染まっていた事を知らない。
(2009.9.11up)(ユウジ誕生日おめでとう!)
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