芥川さんは笑顔でいることが多い。
普段は眠そうにぼーっとしていることが多いが、起きているといつも元気いっぱいでハイテンション。

純粋に物事を心から楽しむその姿、その笑顔。
それらに俺が影響されている事に、あの人は気付いているのだろうか。

 

 

 

 

 

君は太陽

 

 

 

 

 

「…芥川さん、また寝てるんですか?」

「んー…」

 

昼休みの中庭。
次の時間が移動教室なので早めに昼食を終えて向かっていた途中、中庭が見える廊下に差し掛かった所でふと見慣れた金髪のふわふわが目に入り、思わず立ち止まった。

またか、と思いつつ時計を確認すると、授業開始まではあと15分。
まだ時間に余裕がある事をしっかり確認してから、俺は中庭へ向かうべく靴箱へと歩き始めたのだった。

 

 

「確かにここは暖かいですけど…そろそろ起きないと次の授業に間に合いませんよ」

「んー…」

先程から起きるように促しているのだが、芥川さんは一向に起きようとしない。あーだかうーだかよく分からない言葉を発しながら、木陰でゴロゴロと転がっている。
寝返りを打つたびにふわふわと髪の毛が揺れて、思わず見惚れてしまった。

 

なんでこんなにふわふわなのだろうか。

 

何気なく彼の髪を触ってみる。
あ、やっぱり柔らかい。
自分の髪が真っ直ぐだから余計に気になってしまうのだろうか…と、そのふわふわを触りながら取り留めもなく考えていると、芥川さんがくすぐったそうに身じろぎした。
起きるのかと思って慌てて手を離したが、もぞもぞと動いた後、また寝息を立て始めた。
また眠るつもりか…と思わずため息が漏れる。

眠っている芥川さんはとても大人しい。
まぁ、寝ている間も騒がしいようだったらそれはそれで問題なのだが。
もちろん寝ている芥川さんが嫌いな訳ではない。気持ちよさそうに眠るその姿は見ているこちらも幸せになってくる。

 

でもやっぱり起きている時の方が。

 

 

「芥川さん」

「んー…」

何度呼びかけてもちっとも起きる気配が無い。そろそろ本格的に起こさなければ本当に授業に遅れてしまう。
焦りを感じつつ肩を揺さ振っていると、ふと言いようの無い不安に駆られた。

 

今は俺を見ていてくれるからいい。
でも、いつこの状況が終わってしまうかは全く分からない。終わりが来るのは明日か明後日か、この幸せな時間は永遠では無いのだ。

ひょっとしたら、今目を覚ましても、あの笑顔で俺の方を見てくれないかもしれない。

単なるいつもの居眠りなのだから、そこまで深く考える必要は無いと冷静になれば分かるのだが、その時は何故か嫌な想像が頭を支配していた。突然態度がよそよそしくなる訳が無い、と頭のどこかでは理解しているはずなのに、焦燥感に駆られて起こす手に思わず力が入ってしまった。

 

「…早く起きろよ…」

さみしいだろ、とボソッと呟いてしまい、慌てて口を塞いだ。幸いにも彼には聞こえていなかったようで、相変わらず幸せそうに寝息を立てている。
その事にホッとしながら、今まで以上に強めに起こす。

 

「芥川さん」

 

早く、

 

「起きてください」

 

早く起きて、

 

「授業始まっちゃいますよ」

 

俺にいつもの笑顔を見せて。

 

 

 

「んー……あれ、ひよしー?」

 

 

 

その笑顔を見ると、何だか気持ちが落ち着くから。

とても、安心できるから。

 

 

 

――例えるならば貴方は太陽。

俺を、暖かい陽射しで包んでくれる、そんな大切な存在。

 

どうか、どうかその笑顔が雲で遮られてしまう事がありませんように。

 

 

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こう、日吉の心の中のモヤモヤ感を出したかったのに、私の方がモヤモヤした出来栄えになってしまった作品。
とても…残念です…いつかはリベンジを…!

(2007.07.11up)