「おててのシワとシワを合わせて"幸せ"なんだってさ!」

「…?はぁ…」

 

 

 

しわしわ

 

 

 

日吉は大変困っていた。

隣で先輩が何やらいじけている。いや、正確には拗ねていると言ったほうがいいのだろうか。
何とかして機嫌を直したいと日吉は思っているのだが、いかんせん彼がどうしてこんな状態になってしまったのか全く見当がつかない。

なんの話をしていただろうか。確か、手の皺がどうだとか言っていた気がする。意味が理解できなかったので素直に聞き返した所、こうなってしまった。なぜ。
手の皺を合わせる…?幸せ…?顎に手を当てて考えてみる。幸せ…しあわせ…シワ…
…ひょっとして、『シワ合わせ』と『しあわせ』をかけているのだろうか。まるで大喜利だ、と祖父が普段よく見ている番組を思い浮かべながら、チラと隣にいるジローの様子を窺ってみるけれど、相変わらず拗ねてそっぽを向いたままだったので日吉は思わず溜息をはきそうになった。すんでのところで堪えたが。

シワを合わせる、ね…。

取りとめも無く自分の手の平を見てみる。もちろん皺はある。
きっと滝さんあたりなら手相占いも出来るんだろうな、と少々脱線しながら、また手の平に意識を戻した。
じっと自分の手を見つめた後、ジローの手を見る。
そして、日吉はおもむろにジローの手を掴んだ。

 

「!?」

あ。温かい。

季節的に温かいという表現はおかしいのかもしれないが、日吉は率直にそう思った。

「ひ、ひよし…っ!?」

突然の行動に驚いてあたふたするジローにはお構い無しに、日吉は掴んでいた手を一旦離し、今度はしっかりと握り直す。

「!!??」

「…シワを」

「え?」

「手の皺を合わせたら"幸せ"なんですよね?」

日吉は戸惑うジローの目線の高さに繋いだ手を掲げながら、そう問いかけた。始めは日吉の真意が分からず焦っていたジローだったが、日吉の言葉を聞いて、一瞬面食らったあとに頬を紅潮させながら困ったようにそっぽを向いた。

「…俺っ!まだ怒ってるんだからねっ!」

ジローのその言葉に、日吉は困ってしまう。違ったのか。てっきり手を繋ぎたいという意味なのかと…。

再び考え直すべく繋いだ手の力を緩めると、ジローは焦ったようにぎゅっと日吉の手を握った。びっくりしてジローを見ると、ジローはばつが悪そうに視線を彷徨わせた後、ぽそっと呟いた。

「…手、離さないで…」

なんちゃって、と空いている方の手で頬を掻きながらジローにそうお願いされて、今度は日吉が面食らう番だった。

日吉は目を見開き、駄目かな…?と様子を窺っているジローを見遣り、ふっと顔をほころばせた。

『良いですよ』の代わりに、手をしっかりと握り返しながら。

 

 

結局、日吉にはジローが拗ねていた原因が解らなかった。しかし、機嫌を直したジローを見てほっと一安心した。

 

嬉しそうに隣を歩くジローと、繋いだ手とを交互に見ながら、なるほど、確かに幸せだ、と一人で納得する日吉なのであった。

 

 

+++++

話をしっかり聞いてくれない日吉に怒るジローと、考えすぎて見当違いな行動をする日吉。
ジローは、単に人から聞いて面白かった話を日吉に伝えたかっただけです。

「おててのシワと〜」というのは私の住んでる地域で流れているCMからお借りしました。
確かお仏壇…か何かのCMだったかと。ローカルネタですみません。

(2007.08.02up)