6.起きないとキスするぞ

 

 

 

「みなみー…あれ?」

 

特に用事はなかったけど、何となく話がしたくなって部室に戻ってみた。
確か南は部誌を書いていたはずだと思い、名前を呼びながら部室の中を覗いてみると、やはり彼はそこにいた。

 

―いたのだが反応は全く無い。

こちらからは後ろ姿しか見えなかったので南の様子はよく分からない。
聞こえなかったのかな?と近くに寄ってみると、南がこっくりこっくりと小さく揺れていることに気付いた。

「寝てる…?」

自然と小声になりつつそっと顔を覗き込んでみると、予想通り南は眠っていた。
珍しい…と率直な感想を漏らしながら、南の向かい側に腰掛けてしばらく眺めてみることにした。
ペンを握ったまま眠る姿はお世辞にも寝心地が良さそうには見えない。
寝るのなら机に伏せるなりソファに横になるなりすればいいのに、と千石は思ったが、真面目な南のことだ。
部活中に居眠りするつもりは全くなかったのだろう。
その結果がこの中途半端な体勢の居眠りに繋がった、と。

 

しばらく物珍しいものを見るかのように(実際珍しいのだが)南を見つめていたが、段々とつまらなくなってきた。

 

「(なんか…さ、)」

 

寂しい。
いつもならこうして部活をサボっていると必ず南からのお叱りの言葉が来るはずなのに。
別に怒られたい訳ではないけど。
試しに南、と声を掛けてみる。やはり反応は無い。
みーなーみーとさっきよりも気持ち大きめな声で呼びかけてみてもぴくりともしない。

 

名前を呼びながら、目を覚ましてくれないことが悔しくて、半ばヤケクソのようになってきた。

 

「みーなーみー」

 

南からの返事はない。

 

「起きないとキスするよ」

 

相変わらず南からの反応は全く無かったが、自分で言っておきながら千石は何だか凄く恥ずかしくなってくる。

「う、わ…」

一体何を言っているのだ自分は。
カァっと顔が赤くなってきた。
思わず手で顔を覆って誤魔化すようにしながら、居た堪れなくなって千石は部室から逃げるように飛び出した。

 

 

 

「あ、南。今度の練習試合だが…なんで顔が赤いんだ?」

「い、いや…別に…」

部室に入るなり赤い顔をした南が一人で座っていたので、東方は不思議でしょうがなかったとか。

 

 

 

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考えてた以上に乙女チックになってしまいました。
南は3回目くらいの呼びかけで目を覚ましました。別にタヌキ(寝入り)じゃないよ!笑

(2009.3.8up)