「南っ!今日はどこか寄って帰ろ!」

「あ、ああ」

 

 

 

部活が終わったら自分から誘おうと思ってたのに…と、朝からどうやって千石を誘おうか必死に考えていた南は、出ばなを挫かれて複雑な気持ちになった。
しかし、本来の目的である『一緒に帰る』ことには変わりないのだからいいじゃないか、と自分に言い聞かせる事にする。
少しカッコ悪い気もするが気にしてはいけない。と思う。

 

「どこか行きたい所でもあるのか?」

「んー?別にー?」

 

自分で提案したのだからきっと寄りたい場所があるのだろう。
そう思い南は訊ねたのだが、予想に反して千石の返事は曖昧なものだった。
別に行きたい所がある訳ではないのか?と首を傾げると、「あ!」と千石が何かを見つけて走り出した。
突然の行動に面食らっている南を余所に、千石はすぐ近くのお店に向かって駆け出し、ちょっとしたらすぐに戻ってきた。
その手にはコロッケがひとつ。

「はい、南!半分こね」

「え、ああ」

ありがとう、と半分になったコロッケを受け取ったのはいいが、何かが違う、と思った。
これでは立場が逆だ。
慌ててお金を払おうとしたが、やんわりと断られてしまった。

「ねぇ、南」

「どうした?」

やはりここは自分が払うべきなのではないかと悩みつつも、手元の温かくて美味しそうな匂いを放っているそれを前に、誘惑に負けてコロッケを頬張っていると、ふいに千石がポツリと話し始めた。

「今日はありがとうね」

ずっと一緒にいてくれて。
はにかみながらそう告げられて、嬉しいやら照れ臭いやらくすぐったいやら何だか複雑な気持ちになった南は「ああ」とだけ返事をした。
そんな表情でお礼を言われてしまうと正直恥ずかしい。

 

「来年も再来年も、その先もずっとこうやって一緒に帰れるといいな」

そう囁いたのは独り言だったのだろうか。
しっかりとその言葉を耳にした南は、何を今更、とでも言わんばかりに「当然だろ」と千石を見た。

「お前が嫌だって言っても、俺は離れる気なんてないからな」

その台詞に千石は笑みを深める。
何か言おうとして、でも言葉にならなかったようだった。
照れ隠しのようにコロッケを一口齧った。

 

 

「千石」

「ん?」

「誕生日おめでとう」

 

本日何度目になるのか分からないお祝いの言葉を告げると、嬉しそうな「ありがとう」が返ってくる。
この関係が一体いつまで続くのか南には分からなかったが、これから先もずっとずっとこうしていられるといいな、と願いながらコロッケの残りを一気に口へと放り込んだ。

 

 

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さり気に南国の誕生日ネタは初めてなんだなあとしみじみ。

千石さん誕生日おめでとう!

(2008.11.25up)