夕暮れ色に染まる住宅街の中を、日吉とジローはゆっくり歩いていた。

 

 

 

キラキラ。

 

 

 

「うぅ〜寒いっ!」

「もうすっかり冬ですね」

ブルッと身震いしたジローのマフラーが取れかかっている事に気付いた日吉は、何も言わずに直してあげる。
ジローはすぐに振り返ってお礼を言ったのだが、日吉は何だか気恥ずかしくなって「いえ…」と軽い相槌のような返事しか出来なかった。

11月ももうすぐ終わり。
年の瀬もだんだんと近づいてきた。
日が落ちるのも早く、さっきまで2人の髪をオレンジ色に染めていた太陽は、あっという間にいなくなっていた。

日が暮れると街はイルミネーションでキラキラと輝いて、クリスマスが近い事を改めて教えてくれる。この静かな住宅地の中にも所々綺麗に着飾った家があり、2人はそんな家を見かけては足を止めていた。

「もうすぐクリスマスですね」

「だね。今年は雪降るかなぁ?」

「どうでしょうかね…」

最近の冷え込みはとても強いが、だからと言ってクリスマスに雪が降るかと問われても簡単には答える事ができない。意外と当日はポカポカ陽気な可能性もある。

「ジローさんは雪が降って欲しいですか?」

ふと何気なく疑問に思った事を訊ねてみた。
ジローは、んー…としばらく思案し、ニヘッと笑う。

「雪は見たいけど、寒いのは嫌、かも」

その答えに、あぁ、ジローさんらしいなと日吉も笑い返した。

「でも」

少し考えてからジローが小さく囁いた言葉を日吉はしっかりと聞き取り、静かに続きを待つ。
日吉が聞いてくれている事を確認して嬉しく思いつつ、ジローは続けた。

 

「日吉と一緒なら、おれ、どんなに大雪でも構わないC」

 

えへへ、とはにかみながらそう告げると、日吉は驚いたように目を見開いた。

果たして寒さのせいなのか、はたまた別の理由か、2人とも頬が赤い。
日吉は自分の顔の熱さを誤魔化すようにマフラーを巻き直し、それにしても寒いですね、と一言返した。
ジローも照れながら、うん、とだけ答える。

 

しばらく2人の間に沈黙が訪れた。しかし、それは気まずいそれではなく、とても心地がいいモノで、2人は静かに目の前で光り輝くイルミネーションを眺めていた。

 

「俺も、」

ジローがゆっくりと日吉を見上げる。

「ジローさんと一緒にいられるなら、天気なんて何でもいいです」

ジローは顔を綻ばせ、頬を紅潮させながら、うん。と頷いた。
返事は先程と全く一緒だが、全く違うものでもある。

 

2人の熱くなった頬を風が撫ぜる。
冷たい風を受け、無意識のうちに手に息を吹きかけて温めようとするジローを見て、日吉は黙ってそっと手を差し出した。

言葉は無くとも、それが意味する事にジローはすぐに気付き、満面の笑みを浮かべながらその手を取った。

相変わらず風は冷たいけれど、繋いだ手の平はとても温かく感じた。

 

 

再びゆっくりと歩き始めながら、来年もまたこうして一緒にイルミネーション見て歩こうね、とジローが声を掛けると、返事の代わりに日吉はさっきよりも強めに、でも痛くない程度にジローの手を握り締めるのであった。

 

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照れ合う2人。初々しい感じを出したかったけど見事に撃沈…

(2007.11.27up)