明日の支度を終えて、あとは寝るだけというタイミングで一通のメールが届いた。
FROM:ジローさん
SUB:Re:Re:Re:
--------------------------
もうすぐだよ!
|
何がだ。
この先輩が主語の無いメールを送ってくるのはいつものことだが、大体それまでの話の流れで理解できていた。
しかし、今回は突然来たメールがこれだ。
おまけにReが3つも付いている。一体何に対する返信なのだろうか。
ここ最近は専ら電話で済ます事ばかりだったので、恐らく随分前のメールから返信しているのだろう。
さっぱり話が読めない。
思わず、メールの相手に電話した。
その一言が、
「もしもし」
『早いよ!』
「は?」
3回のコール音の後、繋がったと思えば早々に相手に怒られた。
訳が分からない。それに何だか理不尽だ。
眉をしかめ、思わず布団の上で正座した。
「何がですか」
『あとちょっとだから!』
「はあ」
よく分からないが、あとちょっとらしい。もう少しこのまま待って!と言われたので、言われた通り携帯を持ったまま素直に待つ。
それにしても何がもうすぐなのだろうか。
別に何も―――
(あ、そういう事か)
何気なく見た時計でようやく合点がいった。
今は23時59分。日付が変わるまであと30秒。
29、28、27、…
自ら行動してしまうあたり、ジローさんらしいというか何というか。
20、19、18、17、…
自分の部屋でソワソワしつつ、我慢できなくなって電話をかけるジローさんの姿を想像したら、顔が緩んでくるのがわかった。
残り10秒、9、8、7、…
「ジローさん」
『ん?』
「誕生日おめでとうございます」
『うん。ありがと』
へへっ、と笑う声が聞こえてきた。きっと電話の向こうでニコニコしているのだろう。
そんなジローさんに釣られて、自然と笑みが零れてきた。
「いきなり何事かと思いましたよ」
『だって最初に祝って欲しかったんだもん』
一番におめでとうと言って欲しかった。と彼は言う。
それが俺を何よりも喜ばせる言葉だなんて、彼は微塵も思っていないだろう。無意識は怖い。
膝を崩して話していると、日吉はもう寝てると思った、と呟かれて少しムッとした。
そんな。ジローさんじゃあるまいし。
確かに早寝早起きは常に心がけているが、それとこれとは話が違う。
思わず、拗ねたような口調になってしまった。
「寝てるわけ無いでしょう」
だって今日は、ジローさんの誕生日なのだから。
喉まで出かかった言葉を寸前で止めた。
自分は今、とても恥ずかしい事を言おうとしていないか。
誕生日だから眠れないだなんて。小学生か。
急に黙った俺を不思議に思うこともなく、電話越しに嬉しそうな声が聞こえてくる。
『ねえ日吉』
「はい」
『ありがとね』
ああきっと。この先輩には俺の考えなんて筒抜けなんだろう。
その事を若干悔しく思いつつ、しかし幸せを感じているあたり、自分は重症だと思った。
会話を続けながら、机の上に置いてある袋をちらりと見た。
綺麗にラッピングされたそれは、ジローさんへのプレゼントだ。
渡した時の反応を想像すると楽しみで仕方ない。
早く朝が来て欲しい反面、もう少しこのまま話していたいとも思った。
(明日はポッキーいっぱい食えるといいな)
(食べすぎは体に毒ですよ)
(ポッキーは別腹だからいいんですー)
(何ですかそれ)
(2010.5.5up)(ジロー誕生日おめでとう!)
|