更についた年齢差
世間が黄金週間だと浮かれている間も、氷帝テニス部は当然のように練習がある訳で。
こどもの日である今日もテニス部員は学校にいた。
「ジローおめでとう!」
学校に着いてから何回目になるのか分からないお祝いの言葉を受け、ジローは笑顔で「ありがとう」と返す。
何度目であっても祝って貰えるというのは純粋に嬉しい。
先ほど宍戸にもらったポッキーをロッカーにしまいつつ、練習開始に向けて準備を進めていると、部室の扉が静かに開いた。
「あ、日吉。おはよー」
「おはようございます」
ジローが自分よりも早く来ていることに驚いたのか、一瞬目を見開いた日吉は、しかし次の瞬間にはいつもの表情に戻って挨拶を返した。
ジローは昨夜随分早く寝たおかげか、今日は時間通りに起きることが出来て自分でも驚いたものだ。
日吉は後ろを通り過ぎて自分のロッカーへと向かい、鞄を下ろした後に思い出したようにジローを見る。
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとー」
日吉からは日付が変わってすぐにお祝いメールを貰ったが、やはりこうして直接言われると嬉しい。
ジローの場合、0時ちょうどの時点には既に夢の中だったので、メールに気付いたのは今朝だったのだが。
ちなみに、一番早くメールをくれたのは向日だったが、残念ながら時間がまだ4日の23:59だった。
迷ったのだがその事を本人に言ったら物凄く悔しがっていた。
おまけに「俺の時計に合わせろよ!」と注文を付けられた。理不尽だ。
誰よりも早く祝おうとしてくれたその気持ちが嬉しかったので、素直にそう伝えたら、満足したのか騒ぐのを止めたが。
その時のことを思い出しつつ、ジャージに着替え終わり、チラと日吉を見てみる。
先程の会話もそうだが、一見いつもと変わらないように思える。しかし、何だか様子が―――
「…何か怒ってる?」
「え?」
帰宅途中にジローは思い切って日吉に聞いてみた。
今日は始終、日吉の様子がおかしかった気がする。
別に誰かに怒り散らしていた訳でもなく、八つ当たりした訳でもなく、何か、こう、雰囲気が怒っているというか、ピリピリしているというか―。
隠す必要もないので正直にそう訊ねると、日吉は驚いたように動きを止め、ばつが悪そうに頭をかいた。
日吉がそのような反応をするのは珍しいので、思わずまじまじと見つめると、困ったように目を逸らされた。
「俺、何かした?したなら―」
「いえ!違います!」
何か悪い事をしたのなら謝ろうと思ったのだが、喋っている途中ですぐに遮られて驚いた。
自分が原因ではないことにホッとしつつ、ならば何故日吉の機嫌が悪いのか全く分からず、ジローは首を傾げた。
なにやら躊躇している日吉の次の言葉を待っていると、日吉は諦めたように小さく息を吐いた。
「今日はジローさんの誕生日です」
「うん」
「俺の誕生日は12月です」
「?うん」
唐突に日吉の誕生日が話題に挙がったので疑問に思いつつも頷いた。
日吉の誕生日は12月5日だ。
もちろん覚えている。
「12月にやっと1歳差まで追いついたのに…また差が開いてしまったので…」
そこまで聞いてジローはようやく理解した。
今日、ジローは15歳になった。
それに対して日吉はまだ13歳。日吉の誕生日はまだまだ先だ。
努力だけではどうにもならない現実が悔しい、と小さい声で呟く日吉がとても幼く見えて、ジローは思わず日吉を抱きしめる。
体格差があるので自然と抱きつく形になったが。
「焦らなくていいから」
ジローの言葉に日吉がハッと息を飲んだのが分かった。
「俺は別に置いて行ったりしないよ」
確かに日吉と同い年だったら…って考えた事は何度もあるけどさ、と暗くならないように明るく続ける。
学生にとっての一学年差というものは、結構大きい。
「でも、俺は年齢とか関係なく、日吉が好きだから」
言ってから何だか気恥ずかしくなったが、自分と同じか、それ以上に日吉の顔が赤く染まっていたのでジローは自然と笑みを浮かべた。
照れ臭さを誤魔化すように、背伸びをして日吉の頭を撫でると、この人には敵わない…
という囁きが聞こえてきた気がした。
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ジロ若っぽいけど、心意気的には若ジロで。
ジローさん誕生日おめでとう!
(2009.5.9up)(遅れすぎ…)
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