ここ最近、千石の機嫌がすこぶる悪い。

原因は多分、俺…なんだと思う。

 

 

 

JEALOUSY

 

 

 

「…まだ機嫌が悪いみたいだな」
「やっぱり俺、何かしたのかな…」

少し離れた場所で錦織と話している千石を見やる。
先ほどから時々笑い声が聞こえてきて一見すると普段と何も変わらない千石なのだが、何故か南の前に来ると途端に冷たい態度になる。
いつものようにただの喧嘩ならば南が折れてすぐに仲直りできるが、今回は千石が何に対して怒っているのが全く分からず南は戸惑っていた。

謝ろうにも理由が分からない以上謝ることすらできない。
困り果てて東方に相談してみたが、彼も残念ながらお手上げ状態だった。

 

「何か身に覚えは無いのか?」
「あったらこんなに苦労してないよ…」

小声で東方と話していると、向こうにいた千石と目が合った。
あっ…と南は口を開こうとしたが、キッと千石に睨まれて何も出来なくなった。
そのままフイと顔を逸らされるまで固まっていた南は、千石の背中を見つめながらがっくりと肩を落とした。

「…あれは相当怒ってるな」
「俺、本当に何したんだろう…」

弱々しく呟く南を東方は複雑な表情のまま眺めることしかできない。

この状況になってまもなく東方は仲裁に入ろうとした。
しかし千石は「そんなの東方には関係ないじゃん」とバッサリ切り捨てた。
それ以来、東方への態度も心なしかキツくなった気がする。
まあ南へのそれとは比べ物にもならないが。

東方としてもダブルスの相方の役に立ちたいのだが、どうにも八方塞がりすぎて途方に暮れていた。
千石が意味も無く怒るはずは無いから何か理由があるのだろうけど…
その原因が何なのか分からない。

 

気落ちして小さくなっている南を気の毒そうに見つめていると、不意に南が何かを決意したように立ち上がった。

「…やっぱり、直接聞いてくる」

このままじゃ埒が明かない、と拳を握り締めてそう言った南は、おっかなびっくり千石の元へと歩き出した。
いつもよりも小さく見える南の背中に向かって、東方はがんばれ、と呟いた。

 

 

「千石!」
「…何?」

冷たい声に一瞬怯みそうになったが、南は何とか気持ちを持ち直して千石を見据える。

「あの、さ…俺なんかした?」

気づかない内に何かしたなら謝るから、と続けると千石からは「…別に」と返ってきた。
その素っ気ない態度に南は困惑する。

「別にって…何も無いならなんでそんなに怒ってるんだよ」
「だから別に俺怒ってないもん」
「じゃあなんで…!」

南が思わず声を荒げると、2人の様子を窺っていた東方が慌てて仲裁に入る。

「まあ南も落ち着け。とりあえずお互いの意見を聞きながら…」

「ほら、また…!」
「え?」

怒鳴り合ってはまともに話も出来ないだろう。
東方が2人に言い聞かせようとすると、千石が怒ったように東方を指さした。
突然の行動に南と東方が目を見開かせていると、千石が悔しそうに顔を歪ませる。

 

「いつもいつも東方と仲良くしちゃってさ!どうせ南は俺よりも東方の方がいいんだろ!」

 

フンッとそっぽを向いた千石に、南と東方は固まった。

それってつまり…

しばらく2人して固まっていたが、立ち直るのが早かった東方はため息をつきながらやれやれ…と肩を竦めた。
南はまだ固まっている。

 

「つまり千石は、南と俺の仲の良さに嫉妬した、と」

直球で東方がそう指摘すると、千石の顔が一瞬で赤くなった。
俺は別にお前らの仲を引き裂くつもりはないよ…と呆れたように呟くと、それまで固まっていた南も少し遅れて真っ赤になった。

 

「え、あ、その、千石」

「…もん」

「え?」

「いいもん!俺も浮気してやるー!」

「ええ!?」

 

赤い顔のまま、捨て台詞のように吐き捨てて千石が走り去った。
残された南と東方は呆然と立ち尽くす。
一体今の流れでどうして自分が浮気するという結論に達したのだろうか。
千石の思考はさっぱり分からない。

しかし、とりあえず原因は分かった。
東方は深刻な理由では無かった事にホッとしつつ、もう勝手にやってろ…とさっさとコートへ歩き出した。
オロオロしている南を部室に放置したまま。

 

 

 

 

 

 

「錦織ぃ、一緒にストレッチしよー」

「あ、うん、別にいいけど…(何か南が悲しそうにこっちを見てる…!)」

 

 

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JEALOUSY=やきもちを妬く

(2009.8.31up)