2人がケンカをするのはいつもの事だ。 だから普段なら気にも留めないのだが―――
犬も食わぬ
南と千石が言葉を交わさなくなってから1週間が過ぎた。2人が何やら揉めていたのは知っていたが、俺を含め他の部員達も特に気にしていなかった。 普段からちょくちょく喧嘩してはすぐに仲直りしている。毎回喧嘩の内容もちょっとした事ばかりなので、いちいち付き合いきれないというのが正直なところだった。 だから今回もすぐに解決すると踏んでいた。のだが。 「まだ喧嘩してるんですね」 「ここまで長いと心配です…」 今までなら1日、長くて2日で解決していた喧嘩が、今回は異様に長い。いつもどちらかが謝って無事ハッピーエンドだっただけに、部員も困惑気味だ。 室町と壇の会話を耳にしながら、俺は思わず溜息を吐いてしまった。
ここは俺が何とかするしかないか…
「南に?やだよっ!俺悪くないもん!」 まずは千石に謝るように勧めてみたが、あっさりと拒否された。 「しかしなぁ…このままの状態が続いても良いことなんてひとつも無いだろう?」 「別に誰にも迷惑かけてないんだから別にいいじゃん!」 …かかっているからこうして説得しに来ているんだろうが。と言った所できっと聞く耳持たずといった状態だろう。
訂正。南だけじゃなくて千石も充分頑固だ。
「俺が?嫌だよ。それに東方には関係ないだろ」 やはりと言うべきか、南はバッサリとそう切り捨てた。関係ないって…おいおい。 「しかしなぁ…そのせいで部活に支障が出ている以上、放っておく訳には行かないな」 「別に支障なんて…こらそこっ!動きが悪いぞ!」 言いながら、早速その"支障"が現れた。南はイライラすると些細な事で部員を叱るようになるのだ。普段が地味…いや、大人しい部長なだけに、部員はすっかり怯えてしまっている。 こっちも聞く耳持たずか…
全く厄介な部長とエース君だ。しかし、ここまで意見を変えない2人を見た事が無かったので、正直心配でもある。 「なぁ…」 「何だよッ!?」 そんなにイライラしなくてもいいだろうが。 「何でそんなに意地になってるんだ?」 「別に意地になんか…!」 「ほら、それ。冷静とは言えないだろ?」 「うっ…」 ちょっとは意地になっているという自覚があるようだ。 「まぁ、言いたく無いのなら俺も深くは聞かないけどよ…みんな心配してるんだぞ?」 「……」 「もちろん俺もな。早く仲直りしろよ?」 「…分かってるよ」 南が更に俯いた。周りの心配も少しは分かっていたようだ。この調子で行けば、解決出来るかもしれない。 「なら…」 「…分かってるけど…」 「『けど』?」 「俺は間違って無い。」 まだ言うのか…この頑固野郎が!!とは流石に口には出さなかったが、俺の表情で何かを感じ取ったのだろうか、南が俺を見て怯えている。おいおい、俺はそんなに怖くないぞ?はははっ それにしても…ここまで説得しても効果が無いとなると、一体どうすれば仲直りするのだろうか。
途方に暮れて思わず頭を抱えていると、南の後ろからゆっくりとオレンジ頭が近づいて来た。 「南…」 おっ、遂に謝るのか? 「ごめん…俺ムキになってたよ…やっぱり南と話せないのは、つまんない」 「千石…」 「もうこの話は引き分けって事でいいからさ、また一緒にいてよ」 「…そうだな、俺も意地張ってごめんな」
2人ともそれだけ言って満足したのか、あっさり仲直りをした。一体俺の苦労は何だったのだろうか…。
今日は溜息ばかりだ。
「そういえば…」 「「ん?」」 練習に戻る前に、どうしても気になったので、ついでに2人に聞いてみることにした。 「お前ら、一体何が原因で喧嘩してたんだ?」 最終的に引き分け、と提案した所を見ると、どうやら勝負事のようだが、どうしても想像できない。 「何って…どっちの方が相手を好きかって話。」 「…え?」 「絶対俺の方が南への愛は大きいもんね!」 「な…!お、俺だって千石の事が誰よりも好きだよっ!」 「南…!」 「千石…!!」 「……え?」
頭がついて行かない。
「…いい加減にしろ…」 「え、何か言った…ってどうしたの東方!?顔がすっごく怖いよ!?」 「ひ、東方…?」
それから1週間近く、東方は会話はおろか、目さえも俺たちと合わせてくれませんでした。(南談)
+++++ ありがちな痴話喧嘩ネタ。自分で書いててイラっとしました☆ 南国書いて!と注文してくれた某友人(笑)に捧げます。 (2007.9.4up) |