「…こんな所で何してるんですか?」
「あ、日吉もどう?気持ちEよ?」
「…はぁ…」
ひなたぼっこ
「おい、ジローはどこだ」
不機嫌さ丸出しな声で跡部が訊ねるが、それに対する答えは誰からも返って来ない。
跡部がイライラと机を叩いていると、見かねた宍戸が返事をした。さすが、良い人代表である。
「ジローなら、またどこかで寝てるんじゃね?」
「…チッ、この時期はまだ寒いから気をつけろと言ったのに…風邪でも引いたらどうするつもりだ!?」
「知るかよ!そういうのは直接本人に言えよな!」八つ当たりされた宍戸にとって、跡部のその怒りは貧乏くじ以外の何物でもない。
しかし、跡部は全く気にした様子も無く一人で騒いでいる。
この親バカが!と言ってやりたかったが、さすがにそこまで勇気が宍戸には無い。
仕方なく、黙ってその理不尽な仕打ちを受け止めていた。良い人は色々と大変である。
「そんなに心配なら捜しに行けばいいじゃん」
このままではさすがに宍戸が可哀相だ、と向日が助け舟を出したが、跡部は苦虫を噛みつぶしたような表情で答えた。
「樺地は今日、家の都合で休みなんだよ」
何でこんな時に限って!と喚く跡部を横目に、ならお前が捜しに行ったらええやん、と忍足が小さな声で呟いた。
本人に聞こえないように小声で突っ込みを入れるあたり、彼もまた、小心者の一人だ。
「よし!今から全員でジローを捜しに行くぞ!」
「…はいはい。捜しに行きますよ」
さっさとテニスの練習がしたいとか、ジローは案外丈夫だから多少は心配ないだろうだとか、
言いたい事は山ほどあったが、皆全て飲み込んだ。自分たちの部長の、ジローに対する溺愛っぷりは嫌というほど知っているから。
人生諦めも肝心だと跡部以外の全員が感じた瞬間であった。
一方、日吉はほとほと困っていた。
委員会で部活へ行くのが遅くなってしまった為、近道をしようといつもは通らない中庭を横切ろうとした。
した…のだが。途中で部活の先輩であり、自分の恋人でもある芥川によって遮られてしまった。
尤も、芥川に妨害するつもりは微塵もないのだが。
「…何で、こんな道の真ん中で寝てるんですか?」
「んー?だってココあったかくて気持ちEんだもん」
「…そうですか」やはりと言うべきか、芥川は昼寝の為に道の真ん中で寝そべっていたようだ。
人が滅多に通らない中庭だからまだいいものを。これが人通りの激しい道だとしたら、通行妨害も甚だしいだろう。
「…部活には出ないんですか?」
「出るよー?でも眠いからもうちょっとしてから…」
そう言いつつ、早くも夢の世界へと旅立とうとしている先輩に、日吉は呆れて物も言えない。
しかしここで時間を取られたら更に部活に遅れてしまう、と思い直し、申し訳ないがこの人は置いて行こう。と再び歩き出した。
いや、歩き出そうとしたのだが。
「!」
「日吉も一緒にひなたぼっこしようよ〜」
「ちょっ!離してください!」
芥川が足に纏わり付いてきた。
日吉が彼を振り払え無い事を知ってか知らずか、しきりに昼寝を薦めてくる。
全くこの人は…!と思いながらもこんな関係が嫌いでは無い日吉は、仕方が無いと言った感じでその場に座り込んだ。
「…少しだけですよ。少ししたら俺は部活に行きますから」
「うん」ふにゃり、と笑顔を見せる芥川に日吉もつられて笑う。
それはいつものニヤリとした笑顔とは違う、困った感じの優しい笑い方だ。再び寝転んだ芥川の隣に、少し抵抗はあるが日吉も寝転んだ。
途端に視界に広がるのはどこまでも続く青い空だった。
「綺麗ですね…」
「でしょ?俺のお気に入り」
雲一つ無い青空、というのはこういう空なのだろう、と日吉は考える。
何気なく生活しているだけだと全く気にしないが。とても綺麗な色だ。これは普段外で寝転んで空を見上げる事などない日吉にとっては特に貴重な体験だった。
日吉は、ふと近くの樹に視線を転じる。
木の葉や枝がそよそよと揺れている。風が心地良い。
日蔭などではまだ肌寒いと感じる風も、日なたにいると調度良い暖かさを運んでくれるのだ。
しばらくの間風に揺れる木々を見た後、いつの間にか寝てしまった、隣にいる先輩を見てみた。
太陽の光を反射していつもよりも更に明るくなっている髪が、木の葉と同じように優しく揺れている。
そっと、その髪に触れてみるとふわふわとした感触が返って来た。
空の青と、木々の緑。
そして隣で眠る金色を交互に見ている内に、日吉の意識もゆっくりと遠退いて行った。
「…おい、見ろよ」
「ジロー先輩?それに日吉も…」
「ジローはいつもの事やけど、日吉が寝るなんて珍しいなぁ」
「俺たちが必死で捜してたってのに!2人で気持ち良さそうにしちゃってさ!」
「…俺様に無断でジローと仲良く昼寝とは…良い度胸だな、日吉…」
「まぁまぁ。2人とも気持ちよさそうなんだし、そっとしてやれよな」
「クソクソッ!寝顔の写メ撮ってやる!」
「…岳人…」
起きて写メの存在を知った日吉が真っ赤になりながらそれを消そうと奮闘したり、
芥川がコッソリその画像を自分の携帯に送ってもらったりするのは、もう少し陽が落ちてからのお話。
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ジローといえば!な、お昼寝ネタ。
昨夜寝る前にふっと思い浮かんだ話を慌てて携帯にメモしておいて。
その文章を先程ダーっとまとめただけなので、おかしな部分が無いか心配です。
おかげで今日は眠い眠い(笑)ちなみに私は、暖かい日に仲良くお昼寝している2人を
木の上から薄笑いを浮かべつつ、こっそり見守っていたいです。(変態!)(おひさま ぽかぽか いいきもち。)(2007.3.18up)