これは、私が小さい時に、村の東方というおじいさんから聞いたお話です。
キヨ狐
昔は、私達の村の近くの、山吹というところに小さなお城があって、亜久津というお殿様が、おられたそうです。
その山吹から、少し離れた山の中に、「キヨ狐」という狐がいました。
キヨは、一人ぼっちの小狐で、しだのいっぱい繁った森の中に穴を掘って住んでいました。
そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきては、ナンパばかりしていました。
ある秋の事でした。
二、三日雨が降り続いたその間、キヨは、外へも出られなくて穴の中にしゃがみ込んでいました。「つまんないなー。雨だと女の子もあまり外に出たがらないし。早く雨やまないかなー…」
雨が上がると、キヨは、ほっとして穴からはい出ました。
空はからっと晴れていて、百舌鳥の声がきんきん、響いていました。
キヨは、村の小川の堤まで出て来ました。
あたりの、すすきの穂には、まだ雨のしずくが光っていました。
川は、いつもは水が少ないのですが、三日もの雨で、水が、どっと増してしまいました。
ただの時には水に浸かることのない、川べりのすすきや、萩の株が、黄色く濁った水に横倒しになって、揉まれています。
キヨは川下の方へと、ぬかるみ道を歩いて行きました。
ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。
その人は、注意して見ていないと気付かないような、地味な人でした。キヨは、見つからないように、そうっと草の深い所へ歩きよって、そこからじっと覗いてみました。
(南だ!)
キヨは嬉しくなって、南に飛びかかりました。「うわっ!」
南はぼろぼろの黒い着物を捲し上げて、腰のところまで水に浸りながら、魚を獲る、はりきりという、網を揺すぶっていましたが、
突然のキヨの体当たりに驚き、川の中にどぼんと倒れ込んでしまいました。「あはは!南ってば、ずぶぬれー!」
「お前がやったんだろうが!」キヨが指をさしながら全身水びたしの南を馬鹿にしていると、ムッとした南がキヨを引っ張り、キヨも川の中に落ちてしまいました。
「うわ、冷たー!」
「自業自得だ」すっかり濡れねずみのようになってしまった2人は、しばらく黙り込んだ後、どちらからともなく笑い出しました。
「『そのまま、2人は日が暮れるまで水遊びをして過ごしましたとさ』、めでたしめでたし☆」
「…なんだよ、その話。『ごんぎつね』じゃなかったのか…?」
「先輩、絶対途中で考えるのが面倒になったでしょう」
「俺がおじいさんか…」
「亜久津先輩はお殿様が似合うと思いますです!」
「おい!勝手に決めんじゃねーよ!」
「…というか、俺らは全く出て無いな…」
「ねぇねぇ南!文化祭の劇は『キヨ狐』にしよー!」
「却下。」
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久しぶりに『ごんぎつね』を読んだ際、思いっきり感動したので
「この感動をナンゴクでも!」と気合い充分に書いたブツ。あれ…感動は一体どこへ…?
最初に思い描いた話とは180度違う話になりました。
ドンマイっ!自分!(こんな劇が実際あったら観てみたい。)(2007.5.3up)