ガタゴトと電車が走る。不規則なその揺れが心地良い。油断すると眠ってしまいそうだった。
でも乗り過ごしてしまっては困るので懸命に堪えていると、向かい側に座っている金髪が小さく揺れている事に気付いた。
眠りに落ちる寸前なのだろう。まぶたが閉じかかっている。
謙也は人一倍走り回っとったからなあ、とぼんやりと思った。

今日は他校で練習試合があった。
レギュラーはそれぞれ自分たちの持ち味を存分に発揮できていたと思う。
まあ、まだまだ課題は山積みなのだが。

今朝は早かったし、少しぐらい寝かせておいてもいいかもしれない。
すっかり目を瞑ってしまった謙也を見てそう結論付けた。

 

―のだが。

 

「あ?なんや謙也寝とんのか」
「あらぁ、寝顔も可愛えわね」
「浮気か!」
「…先輩ら、キモイっすわ」
「いやーん、光ったら。ひょっとしてヤ・キ・モ・チ?」
「小春ぅ…」

謙也の隣に座っていたユウジがその様子に目ざとく気付き、それに小春が続いていつもの漫才が始まった。
人が少ないとはいえ、電車の中なのでさすがに小声だが。
日常的によく見る光景なのでこちらとしては別に構わないが、そんなバカップルと財前に挟まれた謙也としては良い迷惑だろう。
現にさっきまで気持ち良さそうにうとうとしていた顔が、いつの間にか険しくなっている。

 

「ああもう!やかましいっちゅーねん!」
「謙也が一番やかましいで」
「え、あ、スマン」

それまで俺の横で黙って一連のやりとりを見ていた白石に注意され、謙也は素直に大人しくなった。
口ぶりからして、白石は絶対に楽しんでいる。
謙也はからかい甲斐があるのだろう。銀の言葉を借りると、謙也は哀れやと思う。
…それだけみんなに愛されていると言えば聞こえがいいが。

咎められて静かになった謙也は、しばらくするとまたうとうとし始めた。
よほど疲れているのだろう。
出来ればそのまま寝かせてやりたいのだが、周りがそうはさせてくれないらしい。

夢うつつな謙也を、財前がおもむろにつつき始めた。
それに気付いたユウジも、面白そうに反対側からつんつんつつく。
つんつんつんつん。
最初は無視を決め込むつもりだった謙也も、延々と続くそれには堪えられなかったらしい。
ぷりぷりと怒りながら二人の手を鬱陶しそうに払った。

「せやから!寝れへんっちゅーねん!」
「謙也ぁー。うるさいでー」
「金ちゃんまで…!」

今度は白石の隣で千歳に寄りかかって眠っていた金太郎に怒られてしまい、謙也は若干涙目になっていた。
金太郎に関しては悪意が全く無いからタチが悪い。
純粋に煩いと思ったのだろう。
まあ確かにさっきから騒がしいのは謙也だけだが。

「まぁまぁ、みんなその辺にしたりや。謙也はん、困っとるやろ」
「銀…!俺の味方はお前だけや…!」

さすがに見兼ねたのか、銀がフォローに回った。
やっと救いの手が差し伸べられて謙也が感動している内に、電車が学校の最寄り駅に到着した。
これから部室でミーティングだ。
かわいそうに、結局謙也はうたた寝すらさせてもらえなかった。

 

皆でゾロゾロと電車を降りる。

改札に向かう途中で、ニコニコ顔の千歳と目が合った。

 

「今日もみんな、仲良しばい」

「…せやな」

 

謙也にとっては災難でしかないやり取りも、千歳にとっては仲良くじゃれているようにしか見えないらしい。
思わず頷いてしまったが、謙也が聞いたら「どこがやねん!」とツッコミがとんでくるに違いない。
千歳らしいというか、何というか…。
前方で、何か言われたのか財前にツッコミを入れている謙也を見ながら、小さくため息がこぼれた。

 

 

今日も、四天宝寺中テニス部は平和です。

 

 

 

『そんな日常。』

 

 

 

京都の電車で見かけた高校生たちが、眠そうな友達にちょっかいをかけてて可愛かったよって話。

(2009.10.26up)