今日だけは、特別。

 

 

 

 

 

★☆Happy×2 Day!!☆★

 

 

 

 

 

2月14日。
この日は何だか学校中が浮かれまくっていた。
女子もそうだが、とくに男子。意味も無く椅子から立ち上がったり座ったり、
キョロキョロしながらあちこち歩き回ったりと、やたらとソワソワしていて大変気持ちが悪い。

 

日吉はそんなクラスメイト達を横目に見ながら、先程の授業で出された課題を黙々と進めていた。

 

いつも近くにいる、同じクラスの鳳は今教室にいない。
幸か不幸かバレンタインデーが誕生日な鳳は、毎年この日になると引っ張りだこなのだ。
確かに背が高くて人柄もよく、しかもテニス部レギュラーとなれば女子は放って置かないだろう。

 

まぁ日吉にとっては別にどうでもいいことであったが。

 

「ただいま〜疲れたぁ…」
「人気者は大変だな」
ニヤリとからかいの言葉を口にする日吉に、鳳は苦笑した。
「まぁ、部長なんかに比べたら対した事ないんだろうけどね」
「あの人と比べる事自体、間違ってるだろうが」
「はは…確かに」
昨年、あまりのチョコレートの多さに迎えの車を2台用意せざるを得なくなった部長の姿を思いだしたのか、鳳が力無く笑った。
あの時の彼へのチョコの量はいくらなんでも凄すぎだ。
「そういえば…日吉は結局どうするの?」
ふと疑問に思った事を鳳は口にしただけなのだが、その言葉に日吉は動かしていた手をピタっと止めた。
鳳がおや、と思っていると日吉は何事も無かったかのように鼻で笑って返した。
「どうするも何も…俺には関係無い行事だろ」
「関係ないって…チョコ、用意したのに、渡さないの?」
鳳の指摘に驚いた日吉は、思わず鳳の顔を見上げた。
そんな日吉の反応に満足したのか、鳳は何だか誇らしげに続ける。
「あ、やっぱりビンゴ?日吉はなんだかんだ言いつつ、持って来てそうだなーって思ってさ」
「……」
「折角用意したのに、あげなきゃ勿体ないよ?」
あ、もちろん俺は宍戸さんにあげるんだけどね〜と、予想を裏切らず惚気始めた鳳に適当に相槌を打ちつつ、日吉は物思いに耽った。
世間のバレンタインムードに釣られて用意したのはいいが、どうやって渡せばいいのだろう。
日吉もいくつか貰った事はあるが、あげた事など当然無い。
普通に渡せばいいのだろうか。それともさりげなさを装って?こっそり靴箱に入れておく方法もある。

 

…どれも自分がするには無理があるが。

 

悩み始めて顔が険しくなった日吉に、鳳は惚気るのを止めて説得するように話した。
「別にいつも通りでいいんじゃないかな?普通に渡すだけでも先輩は喜んでくれるって」
「…普通に…」
それが出来たら苦労はしない、と言いたそうな顔で日吉が呟く。

 

この行事の中に、日吉にとっての“普通”は存在しないのだ。

 

 

 

鳳のアドバイスの元、ひとまず帰る約束を取り付けた日吉は、校門の前で珍しくソワソワしながら相手を待っていた。
彼の頭の中は、鞄の中の物をどのように渡すかでいっぱいだ。
「ごめん!遅くなった!担任に呼び出しくらっちゃってさ…」
「いえ、それほど待って無いので大丈夫ですよ」
「ならよかった〜」
日吉の突然の誘いにも快くOKを出した芥川は、遅れた事に対し日吉が怒って無いと知ると安心したように笑った。
じゃあ、帰ろっか。と進み始めた芥川に日吉も慌てて続く。
「それにしても、2人で帰るのなんてスッゲー久しぶりだC!」
「…そうですね」
夏休みくらいまではほぼ毎日一緒に帰っていたのだが、3年生が部を引退してからはさっぱりだった。
授業が終わると後は帰るだけ、な芥川とは違って、日吉は普通に部活がある。
今日みたいに部活が休みな日くらいしか一緒に帰るのは無理だろう。
部活の方はどうかとか自分は最近勉強ばかりで嫌になるだとか、
取り留めもない話をする芥川に返事をしながらも、相変わらず日吉は悩んでいた。
どうやって。どのようにすれば自然に渡せるだろう。

 

そんな日吉に気付いた芥川は、足を止めて困ったように笑った。
「…ひょっとして、俺の話つまんない?」
「え…」
「何かあんまし聞いて無いかなーって思って」
「そんな事…!」
無いです、と続けたかったが、あまり話を聞いて無かったのは事実で。
困った末に思わず俯いた日吉の頭を芥川はあやすように軽く叩いた。
「もし俺に対しての不満とかがあったらすぐに言って欲Cーし」
出来る限り直すからさ、と優しく言い、芥川はまた歩き始める。その顔は少し寂しげだ。

 

違う、そんな顔をさせたい訳じゃない。
俺はただ、先輩に、喜んで欲しいだけなのに。

 

しばらくして、日吉がついて来ない事に疑問を抱いたのか、芥川は立ち止まり後ろを振り向いた。
「?ひよ…」
し、と最後まで言い切る前に、振り向いた彼の目にまず入って来たのは綺麗にラッピングされた包みで。
それを辿ってみると、包みを手にした日吉がいた。
「…これ…?」
「あ、あの、たまたまウチに材料があって、その、ちょうど時間も空いてたので…」
目を逸らしながら言い訳めいた事を口走る日吉を、芥川は黙ったまま見つめる。
反応が無い事を不安に思った日吉が恐る恐る視線を戻してみると、そこには口元に手を当てながら驚いている芥川がいた。
その顔は心なしか、赤い。
「え?マジマジ?え、ちょっと待って、俺今スッゲー嬉Cんだけど…」
え、コレ本当に俺にくれるの?と何度も嬉しそうに聞き返す芥川に、日吉は頷く。
スッゲー!と子供のように目を輝かせる芥川を見て、日吉は思わず小さく噴出してしまう。
「なぁなぁ、これ今から食ってもEー?」
「あ、はい。味は保証出来ませんけど…」
やった!と笑顔で包装紙を開ける芥川の姿を、日吉は緊張した面持ちで見ていた。
手づくり、という以前に、そもそもお菓子作り自体が生まれて初めてだった日吉は、
自分が作ったチョコが実際にどんな出来になったのか分からず、不安でしょうがなかった。
「スッゲー美味C!!」
本当にありがとな!と何度目になるのか分からないお礼を言う芥川を見て、日吉はホッとした表情になった。
喜んでもらえた。よかった、作って。

 

張っていた気持ちが緩んで、日吉が安心していると、芥川がニコニコと自分の方を見ている事に気付いた。
「・・・?どうしたんですか?」
「へへっ、俺って日吉に愛されてるんだなーと思って」
「バッ!何言ってるんですか!」
「だってコレ手作りだろ?俺のために作ってくれたなんてマジマジ嬉C!!これってやっぱ俺への愛?」
「ちょ、それ以上言うとそのチョコ取り上げますよ!」
「えーそれは嫌だCー!!」
真っ赤になって反論する日吉にもお構い無く、芥川は相変わらず幸せそうにニコニコとしている。
そんな芥川を見ている内に、自然と日吉の顔にも笑みが浮かんできた。
日吉はこんな関係が嫌では無い。むしろ好きなのだろう。
微笑む日吉を見て、更に芥川が破顔したのは言うまでも無い。

 

今回ばかりは、あのお節介で目敏い友人に感謝しなければ、と、クラスメイトの長身に思いを馳せる日吉であった。

 

 

 

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今更ながらにバレンタイン話をアップ(笑)
チョコよりも甘く、甘く、甘く、と呪文のように唱えていたらこんな作品になりました。

鳳はもちろん宍戸さんLOVEなので、自分でチョコを作っちゃいます。
お前乙女だな!(笑)
そして日吉もとても乙女チックになりました。
こういう日吉も大好きです!(ちゃっかり主張)

跡部さんはもっとチョコ貰ってそうだな…と今更後悔。
トラック2台にすれば良かった…(そこかよ)

(友人に捧げた忍若を改良したもの)(2007.2.27up)