ちょっとコンビニに行って来ると言ってユウジさんが家を出てから10分。
外はいつの間にか雨がパラパラと降り出していた。
財布をポケットに突っ込んで手ぶらで出かけた彼の為に傘を持って行こうかとも考えたが、行き違いになってしまったら困るのでやめた。
代わりに、着替えと乾いたタオルと温かいコーヒーの準備をして待つ事にした。

それから更に10分後。
ユウジさんが帰って来た。
急いで玄関へ向かうと、びしょ濡れなユウジさんの腕の中には黒くて小さな何かがいた。

「…猫?」

俺が呟くと、その黒猫は小さくにゃあと鳴いた。

 

雨はどうやら夕立だったようで、ユウジさんが帰ってきてから間もなくあっさりと止んだ。
タイミングが悪かったわ、と苦い顔をしているユウジさんの髪の毛を後ろからタオルで拭いてやる。
そのユウジさんはというと、さっき連れて帰ってきた猫の体を拭いている。
何だか妙な光景だ。
猫はまだ子猫なのか、とても小さい。
今は大人しくタオルに包まれているが別に弱っているわけではなさそうなので安心した。

「コイツ、雨の中一人ぼっちやってん」
「うん」
「俺が近付いたら嬉しそうに寄って来たんや」

猫の方を向いたままポツリポツリとユウジさんが話す。
その背中はとても寂しそうに見えた。
俺は相槌を打ちながらユウジさんと猫を交互に見遣った。
確かここはペットOKやったはず…と契約時に大家さんと交わした会話を思い出した。

「で、名前は何にしますか」

「え、」
「せやからソイツの名前っすわ」
「…飼うてもええの?」
「ええも何も、このまま放っておけんやろ」

俺が元いた所に返して来いとでも言うと思ったのだろうか(それはそれでちょっとショックだ)、恐る恐る聞き返してきたユウジさんは、次の瞬間には満面の笑みになっていた。
そんな表情を見て思わず俺は固まった。

アカン、今のめっちゃかわええ。
普段の笑顔も好きやけど、今のはヤバイ。

そんな俺の反応に気付かなかったユウジさんは、よかったなあ、今日からここがお前の家やで!と嬉しそうに猫を抱き上げた。
すると猫にも伝わったのか、何だか嬉しそうにしっぽを揺らしながらユウジさんの顔をペロペロと舐め出した。

「ちょ、やめ、くすぐったいやんけ」

文句を言いながらもユウジさんは嬉しそうに笑っている。

そんな姿を見ていると、だんだん猫が羨ましく思えてきた。

「ズルイっすわ、猫ばっかり」
「え、何か言うたか?」

ポツリと零したらユウジさんが聞き返してきた。
そんな、まさか猫に嫉妬するなんて。
カッコ悪すぎやろ、俺…。
そう思いつつも、一度自覚してしまったらどうにもならなかった。

「俺もしたいんやけど」
「え、何を――」

俺の言わんとすることが分からずにユウジさんはしばらくキョトンとしていたが、俺と猫とを交互に見た後、理解したのか顔を真っ赤に染めた。
猫は相変わらずユウジさんの顔を舐めている。

「嫌?」
「い、嫌な訳やないんやけど…」

モゴモゴと話すその口から拒否の言葉が出なかった事にホッとしつつ、猫を抱く手を胸の辺りまで下ろさせる。
そっと肩に手を置いてそのままゆっくりと顔を近づけると、ユウジさんは赤い顔のままギュッと目を閉じた。

アカン、この人ホンマかわええ。

 

更に顔を近づけると、お互いの唇が触れ合うタイミングを図ったかのように、俺たちに挟まれる形になっていた猫がにゃあと鳴いた。

 

 

 

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ニャンコに嫉妬する財前って可愛いですよね。

都さんちの間取りをお借りしました。
そんな都さんの素敵なサイトは
こちらから。

(2009.7.5の日記より移動)