「ごめん、遅れた!」
「いえ、俺も今来た所なので全然構いませんよ」

開口一番が謝罪の言葉だったことに日吉は少し笑いながら返した。
気を遣ってではなく、日吉は本当に今来たばかりだ。何気なく時計を見るとちょうど待ち合わせの時間だった。
日吉の言葉をお世辞と取ったのか素直に受け止めたのかは分からないが、よかった、とジローは胸を撫で下ろした。

これからどこへ行くかと話し合っていると、日吉はジローの目線が自分の手元に釘付けになっている事に気付いた。手に持っている、大きな包みに。
気付かないわけが無いよな…と自分でも思いながら、なかなか切り出せずにいたその包みを持ち上げてみせた。

「それ…」
「ジローさんへの、クリスマスプレゼントです」

出来ればもっともらしい言葉と一緒に渡したかったのだが、残念ながら日吉の頭の中には甘い言葉などどこを探しても見つからなかった。

「でっかいね!」
「ちょっと持ち帰るのが大変かと思いましたが…」
「全然へーき!ねね、開けてみてもEー?」
「はい」

道行く人の邪魔にならないように道の端に寄ってから、ジローはしゃがんでガサガサと包み紙を開け始めた。
ゴミが出ないように慎重に開けていたので随分時間がかかってしまったが、中身を取り出してみると、そこに入っていたのは大きな羊の抱き枕だった。

「わー!」

羊だ!モコモコ!と抱き枕を軽くバフバフと叩きながら喜んでいるジローの様子を見て、日吉は微笑む。

「他の人からも貰った事があるかもしれないと思って迷いましたが
「ううん!抱き枕は初めて貰った!」

プレゼントを選ぶ時に他の人と被らないかという事が一番心配の元だったのだが、どうやらみんな同じように迷ったのか、意外と安眠グッズ類は貰った事が無いそうだ。
確かに、ジロー=睡眠のイメージが固定されているので、持っていそうだと思って避けるのも無理はないと思う。

嬉しそうに抱き枕をモフモフしているジローの横で、思い切って選んで良かった、と日吉は安心した。

 

ジローはそのまましばらく羊をギュっとしていたのだが、そのうちだんだんと目がトロンとしてきた。

「やべ…何か眠くなってきたC…」

抱き枕にはラベンダーの香り袋が入っている。安眠効果の抜群のそれはジローにとっては寝てくださいと言わんばかりの条件だった。
しかし、日吉と会ってこれから出かけるという時に眠るわけにはいかない、とジローは頭を振ってなんとか目を覚まそうと努力した。その様子を見ていた日吉は思わず笑ってしまった。

「もう帰りますか?」

決して嫌味に聞こえないように優しく訊ねると、ジローは悲しそうに首を振った。まだ一緒にいたい…と眠気を誤魔化すように首を振る。日吉はその言葉がとても嬉しかった。

  

「じゃあ、ウチに来ますか?」

  

「え…」
「たまには家でのんびりするのも悪くないかと…」

別に他意はないのだが、言い訳のように日吉は早口で付け足した。
始めは驚いていたジローだったが、すぐにブンブンッと音がするんじゃないかという勢いで頷いた。

「行く行く!お邪魔します!」

頬を微かに紅潮させながら元気よく答える。さっきまでの眠気が嘘のようだ。
そんなジローにつられてか、日吉も頬が熱くなるのを感じた。
ジローがいそいそと包み紙を片付け、片手でしっかりと羊を抱きしめた。日吉はそれをしっかりと確認してから、じゃあ、行きますか、と手を差し伸べると、ジローは空いている方の手でしっかりと握り返した。

 

 

家でのんびり過ごすクリスマスもたまにはあってもいいですよね。

そだね。

 

 

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遅すぎる2つめ更新…。
日吉が最初から家に連れ込むためにプレゼントを決めたみたいになってますけど…
別に…そんなつもりはない…ですよ…?;

(2008.2.13up)