「ごめん、遅れた!」
「いえ、俺も今来た所なので全然構いませんよ」

よかった、と胸を撫で下ろすジローに、日吉は少しだけ嘘を付いた。
本当は約束の15分程前にはここに着いていた。
でもジローが来たのが待ち合わせ5分前だったのと、自分がやたらと張り切っているようで気恥ずかしかったのとで、わざわざ言う必要も無いと判断したのだ。

 

少しその場で話をしながら日吉が何気なくジローの方を見たら、バチッと目が合ったので思わず2人で笑い合う。
へへっ、とはにかむジローの頬と鼻が、少し赤くなっている事に気付いた日吉は、慌てて自分のマフラーをジローの首にかけてあげた。

「ん、ありがと」
「いえ」

こんなに寒いのならもっとあったかい格好してくればよかった、と苦笑するジローの姿は、それほど寒そうでは無かったが、首元と手だけは全く防寒していなかった。
その事に少しホッとした日吉は、思い出したように鞄を探る。

「はい」
「?」
「ジローさん、メリークリスマス、です」

本当はもう少し時間を置いてから渡そうと思ったが、今日は予想以上に冷え込んでいたので話が変わった。
あぁ!と納得したように日吉が差し出すプレゼントを受け取り、ここで開けても良いか確認してから包み紙を開いていく。
中に入っていたのは、オレンジ色の、暖かそうな手袋だった。
手袋を見たジローは驚いたように目を見開いた後、すぐに自分の手にそれを付け、手袋を包み込むように両手を握り合わせた。

「あったかいC〜。ありがとね!」
「いえ、気に入って頂けたなら何よりです」

一緒にいる中で、ジローが手袋を付けている姿を見た事が無かった日吉は、持っていないだろうと判断してプレゼントする事に決めた。予想通りだったらしく、ちょうど欲しかったんだ、と日吉に見せるように手を掲げるジローを見て、日吉は内心かなり安堵した。

 

そんな日吉の心を知ってか知らずか、ジローは頬を紅潮させながらじっと日吉を見つめる。その視線に気付いた日吉は不思議に思い、首を傾げた。

「?」
「えへへ、あのね、」

俺からのプレゼントなんだけどね、と持っていた紙袋から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。日吉はそれを受け取り、ありがとうございます、と照れ臭そうに返した。
開けてみて、とジローに促されて、包装紙がビリビリに破れないように慎重に包みを開けてみると、そこに入っていたのは紺色に近い青の、落ち着いた感じの色をした手袋だった。

「日吉は手袋持ってた気がしたけど」

何となくプレゼントは手袋が良いって気がしたんだよねーと頭を掻きながら説明する。
もちろんジローはまさか日吉が手袋をくれるとは予想だにしていなかった。日吉も例外ではなく、この奇妙な偶然にただただ驚いていた。

 

しばらくしてから、そうだ!とジローがなにやら閃いたように手をポンと叩いた。その行動は少し古い気がするが、日吉は特に気にする事も無くジローに続きを促した。

名案でも思いついたのか、ジローはウキウキしながら自分のはめている手袋を片方外す。その行動に疑問を抱く日吉に、はい、とその外した手袋を渡した。

「日吉はこっちね」
「?はぁ…」

差し出された手袋を反射的に受け取った日吉は、未だに疑問符が頭から離れないままジローの行動を見守る。
そして、俺はこっち、とジローが取ったのは、日吉にあげた手袋の片方だった。
ここでやっと日吉はジローの意図する事に気付いた。ジローはさっき手袋を外した方の手に、青い手袋をはめた。

 

「これでお揃いだね」

 

ほら、と両手を日吉の前に持っていく。右手にはオレンジ色で、左手に青。そのちぐはぐな組み合わせが、何だかとても大切なものであるかのように日吉は感じた。

「お揃い、ですね」

顔を綻ばせながら日吉も両手に手袋をはめる。はい、と同じように手を掲げると、ジローもくしゃっと破顔した。

 

 

そろそろ食事でも食べに行きますか、と日吉が提案すると、どちらともなく手を繋いで歩き出した。
繋いだ手には、それぞれ同じ色の手袋がはめてあり、繋がっていない方の手も同じ色。
それが、2人の心をとても温かくしてくれた。

 

 

 

 

次に学校に行く時には、両手で色が違う手袋の事をみんなに盛大に突っ込まれるだろうけど、それはまだしばらく先のお話。

 

 

+++++

1つめ。
オレンジと青って組み合わせ的にどうなんだろう…よく分かりませんが。
ちなみに日吉にあげる手袋の色は最後までずっと悩みました。好きな色が『特に無し』って言われても難しいですよね。

(2007.12.26up)